キネマ旬報のレビューが出たわけだが、そんな権威は全く無視しつつ、2009年の個人的な総決算を出してみる。
【2009年 マフティー・セレクション】
1. 『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』
序の公開から、二年ぶりの続編。
新生エヴァ劇場版の最新作。毎度これだけのクヲリティで出してくれるのなら、二年というウェイティングタイムも気にならない。
ずっとエヴァを観ていて良かったと心底思わせてくれる出来。
『序』では旧作からの大きな物語の変更はなかったが、この『破』においてはそのタイトル通り、大幅な物語の再構築が図られている。
それにしても、10数年という永きにわたって人々の間に浸透している『エヴァンゲリオン』の物語をこうも大胆にアレンジして少しの破綻も見せないというのは一種の奇跡とも言える。
ここまでの制作陣の熱の入りよう、ファンならずとも心して今後の展開を見守るべし。
そして、完結してから観ればいいや、と思っているそこのあなた。
まだ今なら、歴史的大作を自分の時間軸と同時代的に語れるチャンス。
2. 『ディア・ドクター』
『ゆれる』の西川美和の監督・脚本最新作。
この人の映画は本当にいつも期待と安心を持って観ることが出来る。
灰汁の強い鶴瓶のキャラクターを巧く捌いたところも特筆。
3. 『フィッシュストーリー』
伊坂幸太郎の原作作品は今年全て網羅したが、個人的には『重力ピエロ』よりこちらのほうが評価が高い。
4. 『サマーウォーズ』
『時をかける少女』の細田守監督+マッドハウスが送るアニメーションムービー。
『時かけ』と比べてどうだという議論はさておき、作品としては十分に傑作の域。
5. 『空気人形』
『誰も知らない』の是枝監督作品。
『リンダ・リンダ・リンダ』のペ・ドゥナ主演。
非常に美しい映画。
後半の「問題シーン」には勿論賛否両論あるかもしれないが、
トータルで清々しい気持ちにさせてくれる不思議。
6. 『おと・な・り』
岡田准一 x 麻生久美子の恋愛映画。
『ニライカナイからの手紙』『虹の女神 -Rainbow Song』の熊澤尚人監督作品。僕がこの方に期待するのは、ひたすら「岩井俊二っぽさ」なのだが、これは岩井路線を踏襲しつつも、恋愛映画の古典的展開がなんとか嫌みにならない程度で悪くない。
『ハルフウェイ』のぐだぐだ感も悪くないが、比較するならこちらか。
久しぶりに観た恋愛映画だったが、赤面モノでとても心温まる作品だった。アラサー男女は必見というところで。
それにしても2009年は麻生久美子の年(映画だと、『おとなり』、『インスタント沼』、『ウルトラミラクルラブストーリー』、『罪とか罰とか』、そしてサッポロビールのテレビCM・・・)だったと改めて感慨深い。
その中でも敢えてこの『おと・な・り』が麻生久美子的に一番良かったと推したい。
7.『わたし出すわ』
『間宮兄弟』の森田芳光作品。
小雪、主演。
公開規模も小さかったし、あまり話題にも上らなかったけれど、個人的には結構ツボだった。
演出が物語に対して中立的というか、非常に淡々としている。
若くして大金を持った女性が、周囲の人々に各の夢を叶えさせるために資金援助をしていくという突飛なストーリーに小雪の外見も相まって、映画的な非日常感・神秘性に溢れている。
北海道の美しい景色も印象的。
8.『南極料理人』
堺雅人主演。
フードスタイリストが『かもめ食堂』の飯島奈美ということで話題になった作品。食べ物をどうしてこうも美味しそうに表現できるのだろうかと感心しつつ、人間生活の基本には食があるのだなと改めて納得させられる。
地味だけれど心が暖まる良い映画である。そして出演者が男性ばっかりのむさ苦しい映画でもある。
9. 『悪夢のエレベーター』
佐津川愛美が良い。
『腑抜けども悲しみの愛を叫べ』でヒロイン佐藤江梨子の妹役、というよりはガスパッチョのCMのバスガイドっぽい人といったほうがピンとくるだろうか。
10.『大阪ハムレット』
様々な問題を抱える実に面倒くさい家族の物語である。
特筆すべきは一家の末弟役の大塚智哉の鮮やかな演技だろうか。
【次点】
『パンドラの匣』
どうも芥川の作品というのはナルシズムに溢れていて心の底から共感というわけにはいかない。個人的には、『ヴィヨンの妻』よりもこちらのほうが好き。
『僕らのワンダフルデイズ』
竹中直人が嫌いでなければ。ストレートで良い映画。
『鴨川ホルモー』
割と好き。山田孝之と石田卓也の掛け合いが実に馬鹿っぽくて笑える。そして相変わらず栗山千明が素敵。
『重力ピエロ』
「俺たちは最強の家族だ。」悪くない。
ただ、伊坂作品ということでは『フィッシュストーリー』を勧める。
『ヴィヨンの妻』
広末は見ておこう。
【2009年の個人的な佳作】
『アサルトガールズ』
押井先生、これはこれでやりたいこと・撮りたいものがはっきりしていてむしろ良かった。
『罪とか罰とか』
成海璃子の現状把握(特に体型とか体重とか)に大いに役立つ映画。
『ハルフウェイ』
10代の幼稚な恋愛と、北乃きいと、岩井俊二っぽい画を堪能できる映画。
『インスタント沼』
麻生久美子の女優力を改めて実感出来る映画。三木聡の映画では一番好きかも。
『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』
小池徹平主演のアイドル映画化と思いきや、IT業界のデフレスパイラルをそれとなく描いた共感できる映画。
『宇宙戦艦ヤマト』
今度のヤマトは六連発。
なんと、波動砲六連発。
物語として、映画として、最初から最後まで破綻している。
しかし、そこはヤマト。
全てを許させる圧倒的な作品力。
もう、ヤマト再浮上のシーンは号泣必至。
『仮面ライダー×仮面ライダー W&ディケイド MOVIE大戦2010』
2009年は地味に平成仮面ライダー10周年の節目の年。
『仮面ライダーディケイド』はTV版最終話で物語が完結せず、「続きは映画で…」というプロモーションをやってしまい、クレームが殺到。挙句、テレビ朝日の社長が放送倫理の観点から謝罪コメントを出したという話もあった。
まぁ、いずれにしても映画の出来もひどかった。
どうも仮面ライダーの映画はやっつけ感というか商業感が強くて面白くない。その中でもなかなか面白かった電王の映画シリーズはさすがという他無いのだが。
【2009年の地雷】
地雷というからには、それが問題作であることに気づかずに踏んでしまうくらいの勢いが必要なのだが、
09年において、そこまでトラップ的な作品はなかったような。
『誰も守ってくれない』
二度見る気もないが、後半はやはり破綻しているような気がする。
【まとめ】
12月の中頃にようやく目標の「年間50本@映画館」を達成し、なんとか安堵。
09年の映画ライフは割と充実。
エヴァは期待を裏切らないクヲリティだったし、細田守や西川美和の新作も出た。
そして最近の邦画の鉄板である伊坂幸太郎原作の映画もたくさん公開され、麻生久美子や堺雅人といった贔屓の俳優のパフォーマンスも非常に高かった。
劇場視聴を敬遠した『愛のむきだし』を2010年の宿題として残してはいるのだが。
ガンダム30周年、平成仮面ライダー10周年、そうして'00年代も終局。